三谷幸喜作品と本の虫★あんのよしなしごと

大河ドラマ「真田丸」をはじめ、三谷幸喜さんの作品の感想、芥川賞受賞作品を中心とした本の感想、音楽やハンドメイド関連などをつづったブログです。

「不信 ~彼女が嘘をつく理由」感想

三谷幸喜さんの舞台『不信 ~彼女が嘘をつく理由』を観てきました。

www.parco-play.com

 

作・演出 三谷幸喜
出演 段田安則 優香 栗原英雄 戸田恵子


以下、内容の核心には触れていないつもりですが、設定やストーリーの方向性など一一部ネタバレしていますのでご注意を。

三谷さんの新境地 サスペンスでホラーで、そして社会派

人間関係を円滑にするために、相手に調子を合わせて思ってもいないことを言うこと。

自分を守るため、都合の良い嘘で取り繕うこと。相手のためと思い、嘘をつくこと。

野次馬根性で他人の詮索をして、あの人はこうに違いないと決めつけ、ゴシップネタにすること。

自分には直接関係ないことなのに、正義感を振りかざして他人の行動を咎めること。

多かれ少なかれ、誰でも経験があることかもしれません。

でもそれらがエスカレートしたらどうなるか。

これまでの三谷作品では、その先に「笑い」がありましたが、今回は逆で、とんでもない「悲劇」がありました。

これは、自分たちの周りにありふれた「嘘」や「野次馬根性」や「正義感」が、笑いにもなるし、悲劇にもなるということを意味しています。
登場人物それぞれの嘘、無邪気な詮索がなにをもたらすのかハラハラさせられ、そして徐々にエスカレートしていく過程を恐ろしく感じました。

昨今のネット炎上などにも通じる課題提起をしているようにも思います。その点、三谷作品には珍しい(というか、初めての?)「考えさせられる」社会派作品ともいえるかもしれません。

また、三谷さんの新境地を見せていただきました。

圧巻の演技、演出

本作は、段田安則さん・優香さん演じる夫妻と、栗原英雄さん・戸田恵子さん演じる夫妻が対峙する物語で、どちらの夫婦も妻が少し変わっていて、夫が妻に振り回されています。

優香さんの、愛らしいが故の怖さと、それを受け止める戸田恵子さんの演技に心奪われました。
そして段田安則さんと栗原英雄さんの抜群の安定感。『真田丸』で真田信伊を演じてらした栗原さんの舞台を拝見するのは初めてで、素敵なお声にもしびれました。

舞台の前と後に客席があり、舞台上の4つのスツールを使った演出も凝っていました。

 

『ユーリ!!! on ICE』と、あの大河ドラマの共通点?

世の中にやや遅れをとった感がありますが、『ユーリ!!! on ICE』を観ました。

『ユーリ!!! on ICE』とは・・・

23歳のフィギュアスケーター勝生勇利が、初出場のグランプリファイナルで最下位と惨敗、引退すら考えながら傷心のまま帰国。
世界トップスケーターで勇利の憧れでもあるヴィクトル・ニキフォロフのプログラムを、勇利が気持ちの切り替えのために個人的に滑っていた動画が予期せずアップされ、それをヴィクトルが見たことがきっかけでヴィクトルが勇利のコーチを務めることになる。
勇利はヴィクトルに導かれて成長していく、といった物語(随分端折っていますが)。

勇利やヴィクトルだけでなく、周囲の色々なフィギュアスケーターたちの物語に、フィギュアスケートにも興味を持ちました。

さてフィギュアスケート界のリビングレジェンドにして勇利のコーチとなったヴィクトルの勇利への熱すぎるほどのスキンシップや数々の言葉に、すわBLだという向きもありますが、それで片づけてしまえない魅力を感じて、それってなんなんだろう、いや実は私もBL好きだったのか、などと考えておりました。

『ユーリ!!!』では、勇利がヴィクトルによって「愛」を知り、成長します。

でも、それって恋愛としての愛ではなくて・・・どこかに似た「愛」のカタチがあったような・・・

と、思い出したのは、大河ドラマ『新選組!』撮影期間中でのNHKの番組で山南役の堺雅人さんが「(新選組副長の土方を演じる)山本耕史は(新選組局長の近藤を演じる)香取慎吾のことを愛している」といった主旨で語った「愛」。

山本さんは、香取さんが共演者との人間関係構築を拒否するような部分に「それでは彼がこの大変な大河ドラマの撮影は乗り切れない」と危機感を感じ、局長を支える副長という役柄でもあることから、自分がどうしたい、ではなく、香取さんの環境をより良くすることに徹しようと思ったそうです(『新選組!』総集編DVDの座談会より)。

山本さんが、香取さんの携帯電話番号をゲットしたり、香取さんが『新選組!』共演者と飲みに行くまでになるまでの数々の「愛」のエピソードは、当時のTV番組や雑誌などで数々語られているように、『ユーリ!!!』のヴィクトル並みのアプローチです。
その後の二人は、この関係をネタにして笑いを取ることも多いですが、山本さんにお子さんが生まれたことを香取さんが自分が司会の生放送番組で報告するなど、今でも深い信頼関係で結ばれていることをうかがわせます。

そんなように、山本さんから香取さんへの熱すぎるほどの「愛」が、共演者と飲みに行ったりはしないという頑なにガードを張る香取慎吾さんの心をこじ開け、熱狂的なファンを持つ『新選組!』を生み出した、とも言えます。

一方『ユーリ!!!』のヴィクトルは、勇利の中にまだ眠っている大きな可能性を見出し、同じ競技者、表現者だからこそ、それをみすみす眠らせたままでいるのは我慢ができず、自分が想像もつかないどんな表現を、世界を、見せてくれるのかを見てみたい、それが今の自分に一番必要なものだと直感したのではと思います。
そしてそのために、自分はなんでもしよう、と。

勇利の可能性を閉じ込めていたのは、自分に自信が持てず、他人からの愛を受け入れられない頑なな心。だからヴィクトルは拒絶され続けても過剰なまでの愛情表現を勇利に示し、勇利の心を溶かし、スケーターとして成長させ最高のプログラムを生み出しました。

二人の関係は、二人だけに影響するのではなく、その周りに波及していくのも似ています。

山本さんから香取さんへの「愛」は、『新選組!』試衛館メンバーを中心とした共演者の一体感を生み出したように思いますし、ヴィクトルの手による勇利の成長は他のトップスケーターを刺激し影響を与えました。

ヴィクトルの勇利に対する想いに恋愛感情がなかったとして、果たしてこういう二人のあり方はあり得るのか?と思ったとき、『新選組!』での山本さんから香取さんへの熱い想い(もちろんメディアに見せてくれた姿が全てであるとは思わないけれど)を思い起こすと、あり得るのだろうと思いました。

そんな二人の関係は「深い絆」と称されるのかもしれません。

でも「絆」という言葉は、どこか表面的な、糸偏という字面もあってお互いを束縛しあうような印象があってしっくりこないのです。

だからか、私には二人の関係は「愛」の方がしっくりきます。

 

そういえば、『新選組!』のなかで、近藤勇と土方歳三がそれぞれ生涯肌身離さず持っていた、黒船来航のときに二人で拾ったおそろいの「コルク」。香取さん、山本さんは、画面に映らなくても首から下げていたそうです。

『ユーリ!!!』でもそういったアイテムが出てきますが(ここまで来てネタバレを気にするのか)、それもそういうことなのかもしれませんね。

 

ユーリ!!! on ICE 1(スペシャルイベント優先販売申込券付き) [Blu-ray]

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【読書感想】『本屋さんのダイアナ』柚木麻子

 

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

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裕福な家庭の一人娘の少女と、母子家庭の少女の共通点は「本が好き」なこと。

小学生の二人が出会い社会人になるまでの成長物語。

自分のコンプレックスに悩み、お互いの能力や環境を羨み、親との関係に悩み、思い描いていた理想の人生からの挫折に悩む。

それらを親のせいにしたり環境のせいにして自分を守っているうちは、その悩みや苦しみからは逃れられない。

けれどもある時、自分や親、関わっている人を俯瞰して見ることができるようになった時、その悩みも客観的に見ることができ、昇華できる。

二人の少女がそうやって自立していく過程をじっくり味わえる作品です。