あんのよしなしごと

三谷幸喜さんの作品の感想、本の感想、映像作品や音楽の感想などをつづったブログです。

【芥川賞】青山 七恵『ひとり日和』

 

ひとり日和 (河出文庫)

ひとり日和 (河出文庫)

 

 

第136回(2006年) 芥川賞受賞作品 ★★

20歳の知寿と、71歳の吟子さんとの二人暮らし。

二人の人とのつながりの持ち方は対照的。
変わらず穏やかな恋を続ける吟子さんと、恋の相手がどんどん変わっていく知寿。

移ろいやすい人間関係の代表ともいえる「恋」を題材にして、 自分のところに来て、そして去っていく人たちへの心の持ち方を描いている。

これはあるいは、自分の過去をどう消化するかという話でもある。

若い時ほど、過去にこだわるのか。
知寿は、去っていく人への執着はしないくせに、 去っていった人たちの痕跡を大事に保管している。
一方吟子さんの、どんなにか物語のあったで あろう過去はすべて名前のない額縁に飾られ、吟子さんは忘れたと言って今を生きる。

(翻って私は。私にはもう、離したくない人たちがいる。知寿のように、離れていく人の背中をただ眺めて、あとで少し感傷的になれば済んだ時代は過ぎてしまったし、吟子さんのように、去っていった人をまとめて名前のない額縁に入れるほど達観してもいない。)

あと、この作家は表現がとても上手い。

 

「春なんて中途半端な季節はいらない。」
「夏のはじめは、ブルーナのイラストみたいに世界の色が鮮やかで単純だ。」

芥川賞の技巧派に属する作品だろう。

波乱万丈な物語もなく、人の心を大きく揺さぶる出来事もなく、物語としては淡々としているし、登場人物の人との距離感の作り方はいたって現代的でそっけなくも感じる。

けれどもその静けさが、作者が描きたかったことを あぶり出しのように浮き上がらせているように思う。