第1回(1935年)芥川賞受賞作品 ★★
『蒼氓』は三部作で、芥川賞受賞作は、その第一部。今回読んだのは芥川受賞した第一部のみです。
「蒼氓」・・・まず、これをなんと読むのか、読めませんでした。。
大辞林 によると、
そう ぼう 人民。国民。蒼生。
とあります。なるほど。
以下、ネタバレを含む感想です。
1930年、日本からブラジルへ渡る移民の人々の話。
日本での生活に絶望し、ブラジルでの生活に希望を見出す人々。
しかしそれは希望というよりは、日本での貧乏よりブラジルでの貧乏のほうがマシではないか、という程度の希望でしかない。
それでも彼ら/彼女らは、そのため帰る場所を捨ててきたという壮絶。
日本にいると情報過多で日々いろいろなことを突きつけられるけれども、ブラジルでは何の情報もなくただ今日を生きることに集中するのみだから、日本での生活より暢気だ、というブラジル再渡航者の言葉に、私たちはどんどん進化していく文明にどう対峙するのか、あるいは対峙しきれないと自覚したときにどうしたらいいのかという問いが投げかけられた思いがした。
また、お互い思い合っている恋人の存在を打ち明けられず、たった一人の肉親である弟に半ば強引に移民として連れてこられた女性の、表に出さない葛藤と諦めが交錯する、やるせない気持ちは、読んでいるほうも同じようにやるせない。
こんなはずではなかったと思う状況の中で、こういうやるせない気持ちをどう処理していくのか。諦めるしかないのか。
それでも、人々の、諦観のなかに静かに蠢くパワーを感じた。
第2部、第3部もぜひ読んでみたい。