あんのよしなしごと

三谷幸喜さんの作品の感想、本の感想、映像作品や音楽の感想などをつづったブログです。

【感想】【芥川賞】羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』

第153回(2015年)芥川賞受賞作品 ★★☆

ネタバレありの感想です。

介護が必要な高齢の祖父と数年前から同居する28歳の孫の健斗。

健斗も祖父の介護に関わっているが、そのアプローチは毎日のように死にたいとぼやく祖父の"願望"をそのままの意味で本気でかなえようと考え、積極的に介護して祖父の自立的行動を奪い、早く弱らせるというもの。

この、ちょっとずれている健斗の視点から介護の現場を眺めることによって、「良い介護」とは何なのか、考えさせられた。

誰もが介護し、介護されるようになる時代。

パワーみなぎる若者である健斗は、弱っていく祖父を見ながら、この祖父の姿は将来の自分であるかもしれないと自覚するようになる。

介護する側、介護される側がともに幸せでありつづけられるには。

死にたいとぼやきながら生きることへの執着を見せる祖父の日常も、
健斗の決して悪意のない無邪気さも、どこかちぐはぐで、滑稽で、愛おしい。

介護をテーマにしていても決して深刻になっていないので、若者が共感しやすいのではないかと思う。

同期受賞作『火花』と比較することに意味はないと思いつつも、本作の方が読み手の肩に力を入れさせない文章のように感じ、素直に読みやすい作品でした。

 

スクラップ・アンド・ビルド

スクラップ・アンド・ビルド