あんのよしなしごと

三谷幸喜さんの作品の感想、本の感想、映像作品や音楽の感想などをつづったブログです。

「世界は3で出来ている」感想

登場人物は三つ子の兄弟、演じる役者は林遣都さんただ一人。


ドラマ撮影もままならないこのご時世、その名も「ソーシャルディスタンスドラマ」。


脚本は朝ドラ「スカーレット」で記憶に新しい水橋文美江さん。


ある夜Twitterをチェックしていたら「林遣都」がトレンドになっていて何事かと調べたら、こんな魅力的なドラマの存在を知ったと同時に時すでに遅し、既に放送後で、見逃し配信の予定なしの無情な文字にがっくり。


ところが反響が大きかったようで、フジテレビのオンデマンドサービスFODで配信開始!月額課金の葛藤はありつつも観たい欲に負けて登録しました。

 

30分あまりの短い作品でしたが、十分すぎるほど見応えがありました。

 

次男が一人でいる部屋に、長男、三男が次々とやってきて、一人から二人の会話、三人の会話ヘ。

つまりは一つの空間に、林遣都さんが一人、二人、三人と増えてゆく。


最初のうちは、別々に収録して合成しているのだろうけれど違和感ないなとか、ここどうやって撮影したんだろうとかの技術的なことに目がいっていたのだけど、だんだん三つ子がリアルに同じ部屋にいて会話しているようにしか見えなくなって内容そのものに没頭していました。

 

三人とも林遣都さんなのに別人に見える。

 

そりゃあ林さんは「おっさんずラブ」の牧と「HIGHT&LOW」の日向のような対極にあるような役ができる幅の大きさがあることはわかっていたけれど、極端に異なるキャラクターという訳ではない三役が同じ空間にいても別人とわかるほどに明確に演じ分けられていて、改めてすごい役者さんなんだと思いました。

 


FODでは2021/6/24まで配信中とのことです。

www.fujitv.co.jp

fod.fujitv.co.jp

 

 

 

 

映画『記憶にございません』感想

脚本と監督:三谷幸喜

 

観終わった直後に浮かんだ言葉は、爽快感。ハッピー。優しい世界。

個人的には、三谷映画の中では一番好きかも。

以下、ややネタバレを含むと思われる感想です。

 

誠実に、本音で話し合えばうまくいくなんて、現実ではありえないかもしれない。

世の中を良くしたいなんて理想に燃えたところで現実の壁は高くて厚くて、大抵はその現実に屈して長いものに巻かれ、わかったような顔をしてそれが「大人になることだ」みたいなことを言ったりして。もうそんな「大人」の自分自身でいることから抜け出せなくて。

 

でもこの映画の中では、私利私欲にまみれた高圧的で最悪な総理大臣が、記憶喪失になり、そのせいで優しく正義感があり誠実な人物になったことで次々と苦境を乗り越えていき、それを目の当たりにした周りの人物も次々に、自分なりの夢があった初心に立ち返っていく。

あたかもその様は、オセロゲームで四方八方が黒で埋め尽くされていたところに白の駒を置いたら、周りがどんどん白にひっくり返るような爽快感で。

ファンタジーなんだろうけど、こんなことがあったら素敵だなと思うし、これをファンタジーと決めつけて大人ぶるのはやめたいとも思いました。

 

登場人物それぞれに光が当たる三谷脚本は健在。
三谷映画はともするとオールスターキャストでお祭り的になりますが、今作は笑いもたくさんありつつも、どこか穏やかで優しい空気にあふれていました。

中井貴一さんの、記憶喪失直後のオドオドしたところから自信に溢れた堂々たる姿への変化が素晴らしい。

佐藤浩市さんの、飄々とした中にある熱、重くなりすぎない渋さ、本当にカッコいいです。

ディーン・フジオカさんは、こういうクールな役が本当にお似合いです。

小池栄子さんの安心感。僅かな登場シーンなのに印象に残る田中圭さん(カッコ可愛い)。

挙げればキリがありません。

あー、観てよかった。

 

映画『記憶にございません!』公式サイト

 

 

ミュージカル『日本の歴史』感想

作・演出 三谷幸喜
音楽 荻野清子
出演 中井貴一 香取慎吾 新納慎也 川平慈英
   シルビア・グラブ 宮澤エマ 秋元才加

WOWOWでの観劇です。
以下、ネタバレ注意です。

 

時は20世紀初頭。アメリカ・テキサスに牧場を開くべく更地を購入して移住してきたシュミット家の母子。母は、亡き夫の夢を実現するために新天地でゼロから生活を始める。

一方、場所は日本。卑弥呼に始まり、平清盛、織田信長など歴史に名を残した人物も、自分に課せられた重責に悩んだり、自分の家を守るために策を練ったり、理不尽に耐えたり、「いち人間」として悩み、もがいた。

シュミット家の母、娘や息子、そして娘の息子が困難に直面して悩みもがいたエピソードと、1700年に渡り日本の歴史を築いた人物たちのエピソードに共通する「いち人間としての悩み」をリンクさせることで、人間というのは時代や国を超えて同じことで悩み、喜び、生きていくのだということを描いていました。

WOWOW番組内で、三谷さんはこう話されていました。

”自分自身の悩みは決して誰も悩んだことがない新しいものではなくて、歴史上の誰かが同じことを悩み、それを乗り越えてきたはず。
現在の問題の解決のヒントは、歴史を学ぶことで得られる。”

歴史は繰り返す。それは人類に進歩がないようで少々絶望的な気持ちになることもあるけれど、歴史上の偉人たちも一人の人間として悩みもがいて生きたことを知っていることが、今を生きる私たちに勇気を与えてくれるように思います。

歴史物語ではなくて、人生の応援歌のようなミュージカルでした。

 

また僭越ながら出演者のみなさまについて。

中井貴一さんの演技に目を奪われました。さすがですね。
香取慎吾さんは、舞台映えする方なのでもっと舞台に出てほしい。相楽総三役は、「新選組!」の近藤局長を思わせる風貌で懐かしさがこみ上げます。
新納慎也さん、「真田丸」の秀次のような、明るさの中に悲劇をたたえた役が本当にお似合いです。
川平慈英さん、シルビア・グラブさんは安定感抜群。シルビアさんの存在感は舞台に一本筋を通しますね。
宮澤エマさん、歌唱力すごいですね。もっと歌を聴きたいです。
秋元才加さん、キツめな性格の役以外の柔らかい役も観てみたいです。

 

『おっさんずラブ』感想 ーその熱量に、ものづくりの心意気を学ぶ

今年(2018年)の春ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系  2018/4/21-2018/6/2 土曜23:15-、全7回)。

最終回から4ヶ月経つというのに、ファン(OL民)の熱は冷めず、主演の田中圭さんは大ブレイク。

私も放送当時3話から見始めてすっかりはまり、公式ブック、サントラ、シナリオブック、Blu-ray BOXと、コンプリート。ドラマにこんなにはまった自分に驚いています。

 このドラマそのものの魅力については様々なところで論じられ語られているので、ちょっと違う観点からこのドラマについて書いてみたいと思います。

 

それは、ものづくりの熱量について。

 

『おっさんずラブ』について出演者やプロデューサー、監督、脚本家などの方々が語っていた言葉からひしひしと感じたのは、「おっさん同士の恋愛」という表面的なキャッチーさを超えて「王道のラブストーリー」を作ろうという熱量。

 俳優さんたちは、人を好きになる気持ちや届かない想い、切なさ苦しさ愛しさを言葉で、表情で、体の動きで表して、あたかもドラマ上の人物が本当にいるかのように役を生きて。

その土台には、その世界観を作り、高いクォリティで映像として形にするスタッフの方々がいて。

 その熱量は決して自己満足のためではなくて、「作品にかける俳優、スタッフの真剣な熱い思いは、受け取る視聴者にちゃんと伝わる」という信念に基づいていて。

 私たち視聴者は、きっとその形の見えない作り手の熱量を受け取ったことで、おっさんずラブの世界に没頭できたのだと思います。

 

唐突ですが、普段私はものづくりに関わる仕事をしています(業種はドラマ関係とは全く違いますが)。

 少し前からよく言われるのは「いいものを作れば売れる、という時代は終わった」ということ。ものが溢れる時代だから「売るために人々に伝える努力、仕掛け」が大事である、と。

そのことに異論はないし、SNSなど「人に伝えるツール」が多様化しているから、コミュニケーション戦略はとても重要。

『おっさんずラブ』だって、巧みなSNS発信やファンの想いを汲み取るコミュニケーションなど、売るための努力、仕掛けもあっての盛り上がりだと思います。その手法もとても勉強になりました。

 ただ『おっさんずラブ』にかける作り手の皆さんの熱量を前にして自分自身に問うたのは、「売るための仕掛け」ばかりに目がいって、自分は肝心のものづくりが疎かになっていないか?ということ。

 いいものを作るだけでは売れないのは確かだろうけど、いいものを真剣に、熱量をもって作ることで、受け取り手に伝わるものは、きっと大きい。

 『おっさんずラブ』に込められたものづくりの熱量が、いち視聴者である私にしっかり届いたように、自分のものづくりの仕事でも、ちゃんと熱量を込めれば、受け取るお客様に伝わるものがあるかもしれない。

 ドラマにキュンキュンしながら、そんなことも考えました。

 

▼Amazon Prime Videoで配信中

episode1 OPEN THE DOOR!

episode1 OPEN THE DOOR!

 
episode2 けんかをやめて

episode2 けんかをやめて

 

▼公式サイト 

www.tv-asahi.co.jp

 

▼特典映像を観たらもう普通には戻れないBlu-ray BOX 

おっさんずラブ Blu-ray BOX

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 ▼春田創一 役の田中圭さん出演の三谷さん舞台の感想

anno-yoshinashi.hatenablog.jp

 ▼牧凌太 役の林遣都さん出演の三谷さん舞台の感想

anno-yoshinashi.hatenablog.jp

 

三浦 しをん『風が強く吹いている』

 

風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

 

 陸上未経験者も含めた超弱小陸上部が箱根駅伝を目指す物語。

メンバーが切磋琢磨しながらハードな練習をし、「箱根駅伝なんてそんなの無理」というところから、「できるかもしれない」へ変わり、やがて「きっとできる」へ。

読みながら、達成感、充実感を味わえる作品です。

 

先日映画版も観ました。

ちょっと突っ張った若者を演じる林遣都さん、箱根駅伝への強い想いを内に秘め、メンバーを大きな包容力と的確なリーダーシップで導く先輩を演じる小出恵介さんがとても素敵でした。 

風が強く吹いている [Blu-ray]

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