あんのよしなしごと

三谷幸喜さんの作品の感想、本の感想、映像作品や音楽の感想などをつづったブログです。

「笑の大学」(舞台版DVDおよび映画版DVDより)感想


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第2次大戦中の検閲官(向坂)と、劇団「笑の大学」の新作舞台の台本の検閲を受ける脚本家(椿)との、1週間のやりとりを描いた(基本は)二人芝居。

舞台版「笑の大学」
作:三谷幸喜 演出:山田和也
出演:西村雅彦 近藤芳正

映画版「笑の大学」
原作・脚本:三谷幸喜 監督:星 護
出演:役所広司 稲垣吾郎 他

笑の大学 スペシャル・エディション

この作品は、実は様々な形で世に出ています。

・1994年:ラジオドラマ版
・1996年:舞台版
・1998年:舞台版(再演)
・1999年:ロシア版
・2004年:映画版
・2005年:DVD化(舞台版(再演)、映画版)
・2007年:イギリス版(感想はこちら) ※追記しました

 

以下、ネタバレありの感想を少々。

この作品の面白さの中心は、検閲で国の意向と合わない点を修正していくことで、なぜかどんどん面白くなっていく台本の内容自体と、最初は喜劇を完全否定していた堅物の検閲官・向坂が、無茶な要求を受け入れながらさらに台本を面白くしてくる椿に徐々に興味を持ち、やがて頭では検閲官としてなすべき事をなそうとしていても、心では椿と一緒に台本を面白くすることに没頭していくようになる過程にあるでしょう。

そして台本の完成とともに二人の距離は最も近づきますが、直後に弾かれるように最も遠いところまで戻ってしまいます。喜劇への熱を残した向坂は再び「続き」を始めようとしますが、椿は―。

舞台版ではこのまま永遠に二人は「続き」をやるのではないかと思わせるラストですが、映画版では、二人は「続き」はないことを確認しあって別れます。どちらが良いというわけではないですが、より「三谷幸喜らしい」のは、舞台版なのかなと思います(下ネタは三谷幸喜らしくないですが・・・)。

全体として舞台版と映画版を比較すると、向坂と椿の関係性の変化の振れ幅をよりダイナミックに感じられるという点で、舞台版の方が好みです。西村向坂の皮肉っぽい冷徹な向坂と、汗だくになりながら必死で何とかしようとする近藤椿のコントラストの強さに比べると、映画版は役所向坂にどこか冷徹になりきれない温かさがあり、世が世ならば椿とも比較的簡単に通じ合えそうな雰囲気を感じるので、向坂と椿の関係性の変化の度合いが舞台版より小さく感じるような気がしました。

まぁ、私にとって「笑の大学」といえば、西村向坂が吐き捨てるように言った「これならまだ『お肉』の方が良かった!(台詞うろ覚えですが)」が思い浮かぶ 10年余りを過ごしてきたので(テレビ放送された舞台版(初演)を見た記憶なのですが)、どうしても舞台版を贔屓目に見てしまうことは確かです。