作・演出:三谷幸喜
出演:長澤まさみ 斉藤由貴
【あらすじ】
とある文学賞選考会の前夜。選考委員を務める二人の女流作家「清少納言」(斉藤由貴)と「紫式部」(長澤まさみ)。
ベストセラーとなったエッセイ「枕草子」で地位を築き、大御所となった清少納言と、「源氏物語」で一躍売れっ子となった新進気鋭の若手、紫式部。
二人がバーで飲みながら翌日の選考会のことを話していくうちに、お互いの作家としてのプライドをかけた「オンナのバトル」に・・・
以下、毎度のごとくネタバレしていますので、ご注意ください。
ベテランと売れっ子若手。
表面的にはバーカウンターで飲む同業の先輩後輩トークですが、お互いに言葉の端々にトゲがあり、テーブルの下で蹴りあってるような会話。
ベテランとしては、若手の台頭によって自分の地位が脅かされ、自分が過去の人間になってしまうことを恐れる気持ちがあり、
一方若手としては、自分の方がいい仕事をしていると思うのに、業界をベテランが仕切っているのが面白くない気持ちがあるでしょう。
「清少納言」と「紫式部」は、そういう構図を象徴的に表したモチーフであって、実際のこの二人の物語というわけではありません。
影響力あるベテランとしての地位を保とうとしつつも愛らしく、そして若手の台頭に焦りも見せる斉藤由貴さんの清少納言は、危ういようでいて、いやいやどうして決して揺るがない自信、威厳を感じられました。
長澤まさみさんの紫式部は、キリっとした立ち姿が美しく、意地の悪い振る舞いも、若いという強さと自信が感じられるからか嫌味にならず、「ここまでくればあっぱれ!」と言いたくなるようなキャラクターでした。
三谷さんがパンフレットのインタビューで、この二人は今の自分と20年前の自分と言われていました。
20年前の三谷さんといえば、「君となら」の初演やドラマ「王様のレストラン」の頃。
最近のコラムを拝読していて、20年前のご自分に対して、奮起せねば!と思われているような節もあるので、そういったこともこの二人に現れているのかもしれません。
また、三谷さんが意識するような後輩世代の脚本家ってクドカン(宮藤官九郎)さんくらいかなと思っていたら、やはりクドカンさんを意識してらしたみたいですね。
清少納言が三谷さん、紫式部はクドカンさんであてはめると、見た目の話とか、多彩さとか、その要素も入ってる気がします。
さてオンナのバトルの行方ですが・・・
バトルでは優位に立つ、売れっ子の紫式部でさえ、次の世代の若手の台頭に焦りを感じていたことがわかります。
これは作家だけでなく、どのような職業にもあることなのではと思います。
そして、1000年後には作者が美人だったかとかどんなスタイルだったかなんて関係ない、作品だけが残るのだ、という言葉。実際に紫式部と清少納言の作品は1000年たっても読み継がれているからこそ、この二人をモチーフにしたことが説得力を増す効果があったと思います。
少し気になったのは、紫式部が清少納言の力も借りて「源氏物語」の(いわゆる)宇治十帖後半のストーリーを考えたのに、結局紫式部は待っていた編集者にその内容を伝えずに連載を落としてもいいと言ったのはなぜかが謎のままだったこと。
清少納言の力を借りてアイディアが膨らんでいったことが悔しかったのでしょうか。
そしてラスト、紫式部は「紫式部ダイアリー」に清少納言とのバーでの出来事をなんと書いていたのでしょう。
三谷作品で、明かさずに終わる、という形も珍しいように思いました。