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三谷幸喜作品と本の虫★あんのよしなしごと

大河ドラマ「真田丸」をはじめ、三谷幸喜さんの作品の感想、芥川賞受賞作品を中心とした本の感想、音楽やハンドメイド関連などをつづったブログです。

【感想】【芥川賞】又吉直樹 『火花』

 

火花

火花

 

 

第153回(2015年)芥川賞受賞作品 ★☆☆

以下、ネタバレありの感想です。

「僕」こと徳永は、ぱっとしない若手芸人。熱海の花火大会での営業では自分たちの漫才に耳を傾けてくれる人もいない。
そんな徳永の前に現れた、先輩芸人、神谷。
社交的ではなく芸人仲間と打ち解けるのも苦手な徳永は、独自のお笑い観を持ち、それを徹底する神谷に心酔し、「師匠」と憧れる。

二人は夜な夜な飲み歩いては芸の道を語る。いつか売れる日のために・・・

***

「自分が面白いと思うことを追及すること」は、是か非か?

自分が面白いと思うことが世間には受け入れられない、という事実に直面した時、自分の軸がずれているからと考えて世間に合わせて軌道修正するか、面白さの度合いが足りないからと考えてさらに「自分が考える面白さ」の度合いを強めていくか。

何らかの創造的な仕事をしている人は、常に直面する葛藤ではないかと思います。

本作は、この葛藤と格闘する徳永と神谷の10年間にわたる対話の記録ともいうような物語。

二人はずっと同じところをぐるぐる回っているようにも見えますが、少しずつ変化し、その軌跡はあたかもDNAのらせん構造を思い起こさせました。

そして徐々にエキセントリックに、狂気さえ漂い始めるようになる神谷の姿に憧れ、理解しつつも冷静に見つめ、失望もしていく徳永。

しかし神谷をそこまで追い込んだのは、神谷に憧れ続けた徳永の態度があったからこそ
とも言えます。徳永にその自覚はあったのかどうか・・・

作者の又吉さんが芸人であることが大きな要因であると思いますが、二人の対話は、芸人ならではと思わせる機微があって説得力がありました。

ほとんどが食べていけずに辞めていく芸人の哀愁が全編に漂いつつ、又吉さんの芸人としての矜持が注ぎ込まれた、芸人だから書ける作品だなという印象を持ちました。

(芥川賞作品の中では、作中人物にどうしようもないリアリティを感じる点で西村 賢太作『苦役列車』に似ているように思いました。)

文章はとても丁寧で、特に最初の数行は「文学する」気合いを強烈に感じました。