三谷幸喜作品と本の虫★あんのよしなしごと

大河ドラマ「真田丸」をはじめ、三谷幸喜さんの作品の感想、芥川賞受賞作品を中心とした本の感想、音楽やハンドメイド関連などをつづったブログです。

【読書感想】『愛のようだ』長嶋 有

平凡な40男の愛おしさ

ロードムービーならぬ、ロード小説とでもいいましょうか。

男達のドライブで盛り上がるのは、子どもの頃に流行っていたマンガ、音楽、女の話。 一方で彼らの日常は、特別な素晴らしいことがあるわけでもなく、地道に仕事をしている。

そんな40男がとある女性と出会って気づいた気持ちは。。。

20代の後輩が失恋してワンワン泣いているのを見て、「若いっていいな」などと思ってしまう年頃の方にオススメです。

オトナの愛情

誰かを壁際からそっと見守っていたいとか、笑顔であって欲しいと願ったりとか、そこにいてくれるだけでいいとか、どこか控えめな気持ち。

「愛のようだ」という言葉は、まだどこか確信を持てていないけれど、どうもそうらしい、といったニュアンスがありますね。これまで自覚していなかった、こういう形の「愛」を自分のものとして感じられるようになった瞬間をあらわす言葉として「愛のようだ」は絶妙と思います。

長嶋さんらしい仕掛けはたくさん潜んでいます。

特に長嶋さんお得意のマンガの話や、音楽、映画の話がこれでもかというくらいでてきます。例えば「キン肉マン」といえば、ある年代層は初対面同士であってもひとしきり話が盛り上がることでしょう。普段、固有名詞はほとんど使わない長嶋作品でこれだけふんだんに使われているのが珍しいですが、マンガや音楽、映画は同世代感を強調する効果があるように思います。

そして、相変わらず長嶋さんが描く女性はしなやかで強いです。そしてそういう女性を男目線で魅力的だと言っているところが好きです。

読んでいてガツンときた一節があります。少々長いけれど、引用させてください。

 

 男の歌を口ずさむこと以上に、好きな車がある女は皆、素敵だ。すべての女たちは―免許があろうとなかろうと―好きな車を心に抱いていて欲しい。それも単に「アウディ」とか言うのではなく、車種まで定まっているのがいい。そのことは、たとえば欲しい贅沢品があるというのとは似て非なる「心持ち」だ。
 今はこんな風な「私」だが、まったく異なる風に生きている「私」というものの輪郭を、彼女たちは常にまとって生きている。向上心があるというような単純な善良さとも違う。得られないかもしれないことも、知っている。いつか努力の末になれるかもしれない、幸運でそうなるのかもしれない、とにかくその異なる「私」は、絶対に私なんかよりも颯爽としているんだ。そう思いながら現場の不遇を嘆くこともなく、ただただ颯爽とした(車を運転する)自分を思って生きる。 (長嶋 有『愛のようだ』より)

憧れを手にした自分自身の姿を想像して心のよすがとしながらも、夢見る夢子にならず現実をしっかり生きる女性。その心持ちの繊細なニュアンスまで表現されていて、ああ、こんな女性かっこいいと思いました。

油断しているとこんな文章に出会ってしまう。だから、長嶋ファンはやめられません。

 

愛のようだ

愛のようだ