あんのよしなしごと

三谷幸喜さんの作品の感想、本の感想、映像作品や音楽の感想などをつづったブログです。

【芥川賞】村田沙耶香 『コンビニ人間』

第155回芥川賞受賞作品。★★

 

コンビニ人間

コンビニ人間

 

 

 

以下、ネタバレありますのでご注意。

 

読んでいくうちに、自分の価値観を問われているように感じました。

主人公の恵子は、物事の善悪の判断基準がなく、感情も起きない。
子どもの頃、公園で死んでいる小鳥を見て他の子どもたちが可哀想と泣いている横で「この小鳥を焼き鳥にして食べよう」という子ども。父親が焼き鳥が好きだから。
また、取っ組み合いの喧嘩をしている男子生徒たちを止めるために、彼らをスコップで殴りつけるような子ども。「誰か止めて」とその場にいた子たちが叫んでいたから。
なぜ自分の取った行動が良くないのか、理解できない。

そのため恵子は大人になるにつれて周りにいる人の行動・言動を真似るようになります。自分の頭で考え判断するのではなく、ただ真似る。
「普通の人」のようにふるまうことででようやく社会の中で生きていけるようになる。

「郷に入っては郷に従え」という言葉があるように、集団の中で社会生活を送るためにはその集団の価値観やルールに従わざるを得ないという一面は確かにあります。
その集団を社会全体にまで広げた時、集団の価値観やルールは「普通」「常識」と呼ばれるのかも知れません。

この社会における「普通」とは何か?が全くわからない恵子の目を通すことによって、あなたが考える普通や常識って普遍的なものなのか?正義なのか?と問いかけてきます。

この作品には3種類の人が出てきます。

まずは、恵子。自分の生来の気質に加え、36歳で独身でコンビニバイト生活(ただし、コンビニ店員としては非常に有能)である自分が普通ではないと自覚し、自分ではそれを気にしてはいないが、社会生活を送るために必要なので「自分が普通ではない」ことを隠す努力をしている。

そして、白羽さん。30代半ばの無職独身男性。自分が「普通の男性の生き方=仕事をし、結婚して家庭を持つ」ことをしていないことを卑屈に捉え、行動も卑屈です。

そして最後に、恵子の周りの人々。「普通」からはずれている人を(無意識下でも)遠ざけようとし、「普通でない」白羽さん(卑屈な行動、ルール無視が多いこともあり)を毛嫌いし、恵子のことを「36にもなって独身でバイト生活なんておかしい」と心配したり、理解しがたいと思っている人々。

読んでいても、恵子の子どもの頃の行動は理解しがたい一方で、36歳で独身でバイト生活だからって異常者扱いしなくてもいいんじゃないかと思うそのことに、自分自身の「普通かどうかを判断する物差し」を自覚させられました。

また、恵子や白羽さん、周りの人々の気質や考え方そのものを取っ払って単純化すれば、マジョリティの人々、マジョリティを基準に設計された社会をマイノリティである人々の目から見た物語でもあります。

マジョリティである「普通」側が、その「普通さ」を正義としてマイノリティに押し付ける厚かましさを恵子の周囲の人々から感じました。

色んな視点で見れば、自分は何かではマジョリティ側であり、何かではマイノリティ側であったりするもの。

結局は多様性を認めるということになるのでしょうけれど、それは決して建前ではなくて自分にとってのリスクヘッジなんだろうなと思います。